コミッショニングレターVol.19 No.1(1月号)
2022/01/17掲載
2022年 新年を迎えて
BSCA理事長 吉田治典
新年おめでとうございます。新年早々オミクロン株が急拡大し、また新たなコロナ禍を迎える年となりました。しかし、対処方法が闇だった昨年とは違って、社会を動かす必要性も力も見えはじめ、巣ごもってはばかりはいられない、していてはいけないという気運がでてきました。まだ渦中ではありますが、本年が皆様方にとって安全かつ幸多き繁栄の年になるよう祈念いたします。
一昨年誕生した菅政権は多くの批判をうけ短命でしたが、安倍政権では力が入らなかったカーボンニュートラル宣言とデジタル化の邁進という政策を立ち上げたことは評価してよいと思います。昨年の年頭所感では、「近未来の日本にとってとても重要なこれらのテーマが、歩むべき方向を読み違えていて失望した!、とならないようにお願いしたいものです。」と書きました。しかし、昨秋、誕生した岸田新政権下では、この動きが新しい資本主義の旗印に埋没し少しトーンダウンしているのではないかという懸念を感じます。そう揶揄されない政権運営をお願いしたいものです。
岸田政権が目指すのは新しい資本主義を実現すること。具体的には、新たな成長産業を創りそれによって富の分配を図る、そのためには、旧来の産業構造を見直してイノベーションを図り、必要であれば古い組織と体質を淘汰して分配(報酬)を増やそうとしています。そこでは、カーボンニュートラルやデジタル化はイノベーションのための手段として位置付けられ、それ自体が直接的な目的ではなくなっています。これがトーンダウンしたように感じる一因だと思われます。確かに、カーボンニュートラルやデジタル化ですぐさま成長し報酬アップにつながるのかといえば、直接的にはそうではないのでしょう。特にカーボンニュートラルは、長年、余裕のある企業がCSRと称して取り組む社会貢献だと捉えられ、成長や配分とは対峙するものと捉えられてきたきらいがあります。その間に、世界ではカーボンニュートラルやデジタル化が成長に繋がりました。それに乗り遅れた我が国は成長戦略で周回遅れに陥り低報酬の国になってしまった、ここで起死回生を図らねばならない、というのが政策が目指すところでしょう。
確かにコミッショニングを進める我々も、どうすれば新しい成長の一翼を担えるのかを考えてみる必要性があると思います。カーボンニュートラルで地球環境を保全し社会貢献するというのは倫理的に正しい姿なのでしょうが、それが成長を生み、ひいてはコミッショニングに携わる人達(=我々)の価値や待遇(報酬)のアップ繋がるようにすることは重要なことです。
最近、日本の雇用形態をメンバーシップ型(いわゆる総合職型)からジョブ型にシフトする動きが盛んです。ジョブ型採用では必要なスキルが職務記述書(ジョブディスクリプション)として明記されます。当協会ではCxPEやCxTEに必要なジョブスキルを確立してきました。例えば、高いコミュニケーション能力を有し発注者が目指す省エネをOPRとして文書化できる、企画・設計のアドバイスや設計レビューができる、施工時のVE判断が適切にできる、機能性能試験をして性能検証や適正化ができる、既存ビルのBEMSデータを分析・調査して省エネ上の課題をまとめることができる、最適なシステムをシミュレーションで評価・検証できる、などという、コミッショニングに特化したジョブにおける専門性です。今後、SDGsやESGが様々な形で浸透してゆくなか、このジョブの必要性はますます認知されてゆくに違いありません。
こうした展開になるには、建築プロジェクトを発注する側にこのようなジョブへの高いニーズのあることが必須ですが、その兆しはすでにあります。実際、当協会で先導的Cxとして受託しているプロジェクトでは、企画・設計のアドバイスや設計レビューというジョブに対して、他に適切な担い手が見つからないから協力して欲しいと要請されています。また、既にコミッショニング業務に特化して設立した会社では、このような独自性の高いジョブへのニーズは高いと聞いています。
成長戦略の一つに終身雇用制からの脱却もあるようです。ジョブディスクリプションを公開することで雇用の流動性が促進され、結果として組織の自然淘汰が起き、それが分配(報酬)の上昇に繋がる、という改革です。先日、ある会社が45才定年制を打ち出したところ体の良いリストラだと批判がでて話題になりました。会社側からは、本当の意図は前向きなキャリア形成にあることを判って欲しいと弁明があったようです。それに理解を示す発言もありました。実は、もう40年も前のことになりますが、私が勤務していた会社でも同じ意図の提案がありました。結局、それは労働組合に受け入れられず実現しませんでしたが、当時としては画期的な提案だったと思います。そのとき私は、技術者が常にキャリアを磨くことの重要性と、ニーズの高いジョブとは何なのかを自ら考える必要性を云っているのだとさほど驚きませんでした。いま日本は、従来型の終身雇用から脱却することが成長のための重要な課題になっています。45才という年齢に大きな意味はなく、定年後であれ20才代であれ、要するにジョブ型雇用において、自分は何がしたいのか、何ができるのか、できなければどうキャリア形成をすればいいのか、報酬は妥当か、ということを問いながら成長する時代に入いったのだといえます。
昨秋、有志のCxPEの方々と共に、CxPEの資格がどのように活かせるか活かすべきかというテーマの座談会を3回開催しました。その内容はレター記事として今後連載されます。100名近い認定CxPEと70名近いCxTEの登録者が、将来、ジョブ型雇用で注目され、高い報酬が分配されるような成長が生まれることを祈り、年頭の挨拶といたします。
最後になりましたが、会員の皆様、本年も当協会の活動に積極的に参画し協働して頂くようよろしくお願いします。
2021年度BSCAシンポジウムin関西(報告)
―コミッショニングの推進を目指して―
株式会社コミッショニング企画、BSCA理事 松下直幹
2021年11月26日、メルパルク京都(京都市下京区)において、「コミッショニングの推進を目指して」と題しまして、コミッショニング事例を紹介するシンポジウムを会場参加者とオンライン参加者をつなぐハイブリット会議形式で開催しました。会場は発表者6名を含む15名、オンラインは49名、合計64名が参加されました。
まず、当協会の吉田理事長よりシンポジウムの主旨説明をされたのち、コミッショニング(以下、Cx)事例の発表の前に2つの講演が行われました。一つ目は、「最新のBAS/BEMS/自動制御システムの動向について」と題して、本記事執筆者・松下(BSCA理事)が講演しました。この講演では、Cxプロセスの各フェーズの遂行には、BEMS、中央監視・自動制御システム(以下、BAシステムと総称)が重要なツールとなることから、最新のBAシステムの動向とともにCxの観点からBAシステム構築時の注意点について話をしました。最新動向については、国内の情報だけでなく、現在BSCAの代表として松下が参加しているIEA/EBC Annex81 Data-Driven Smart Building(データ駆動型スマートビルディング)*の情報を交えた海外動向についても話をしました。
二つ目の講演は、関西電力の山口麻有氏より、「計測データを用いた検証業務事例」と題しまして、新宮市庁舎におけるエネルギーマネジメントの取組について講演されました。Cxプロセスの業務の一つである機能性能確認・適正化は、データ分析結果を基に改善を行うのが基本です。海外ではこうしたCxプロセスはモニタリングベースCx(Monitoring-Based Commissioning (MBCx))と呼ばれ、施設のエネルギーパフォーマンスを最適化する手法として位置づけられています。これに類した実践事例として紹介されました。
講演の後は、二つのCx事例の紹介です。ともにCxプロジェクトとして、ビルオーナーからフィーをもらって行われたビジネスベースの事例です。一つ目は、四国電力として有料のCxサービスとしての取組んでいる事例についての紹介です。従来は、ビルオーナーにエネルギーを売るための無償サービスとして行われていましたが、これをビジネスとして社内に新たな部門を立ち上げて活動されているとのことでした。
二つ目は、新宿タカシマヤタイムズスクエアの既存Cx事例です。髙島屋グループ会社で当ビルの管理運営を行う東神開発から、本記事執筆者の運営する会社・コミッショニング企画に受託されたプロジェクトで、DHCの受入冷水設備を対象とし、管理運営会社(東神開発)、CMT(Cx企画・ミツイワ)を中心に、ビル保守管理者(太平ビルサービス)、施工者(三機工業)、自動制御メーカ(ジョンソンコントロールズ)がCxチームとしてプロセスを遂行し、大きな費用対効果を実現した既存Cx事例です。髙島屋グループ施設でのCxプロジェクトとしては、昨年のBSCAシンポジウムで発表された玉川髙島屋SCの既存Cxに続き二例目となります。本発表は、CMTの藤原弘史氏、松下からの概要と調査フェーズに関する説明の後、施工者である三機工業・渡邉亮祐氏からは実際に行った対策の背景となる技術的な解説、具体的な作業内容、及び施工者にとってのCxのメリットについて発表されました。本事例発表のまとめとして東神開発・岡田洋一郎氏から、本プロジェクトにより対象設備のエネルギー消費量を70%減(約91万kWh減、12,700千円/年のコストダウン、単純回収年数0.7年)を実現したことが紹介されるとともに、今後計画している設備更新はCxプロセスを導入すること、さらには髙島屋全店舗に対してCxを導入する計画があることなどが話されました。
最後に、シンポジウムの発表者をパネリストとして、吉田理事長がコーディネートで質疑応答、ディスカッションが行われました。質疑応答では、Cxをビジネスで始められた四国電力の体制や今後の展開についてや見積金額の考え方について、Cxの発注者側である東神開発・岡田氏には、Cxプロジェクトを成功に導くためのオーナー側の注意点などについての質問などがありました。岡田氏からは、オーナーが過去の設計・施工内容を批判するのではなく、これから先をどうするかに注力することがCxを進める上では重要だと話されたことが印象的で、Cxの大事なポイントだと改めて感じました。その他、様々な意見交換が行われ、有意義なシンポジウムでした。
* IEA/EBC Annex81 Data-Driven Smart Building(データ駆動型スマートビルディング):国際エネルギー機関(IEA, International Energy Agency)に設けられた実施協定の一つである建築物とコミュニティーにおけるエネルギー部会(EBC, Energy in Buildings and Communities)傘下の分科会(Annex)の一つ。Annex81は、Data-Driven Smart Buildings(データ駆動型スマートビルディング)をテーマで行われている。(https://annex81.iea-ebc.org/)
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【スケジュール】
・13:30~13:40 趣旨説明 BSCA理事長・京都大学名誉教授 吉田治典
・13:40~14:10 講演1「最新のBAS/BEMS/自動制御システムの動向について」
松下直幹(BSCA理事、Cx企画・代表)
・14:10~14:40 講演2「計測データを用いた検証業務事例~新宮市庁舎におけるエネルギーマネジ
メントの取り組み~」 山口麻有 (関西電力)
・14:45~15:15 Cx事例1「四国電力のCxビジネスについて」
Cxプロジェクト受託者:四国電力、天野雄一朗(CxPE・四国電力)
・15:15~16:05 Cx事例2「新宿タカシマヤタイムズスクエア既存Cx(企画・調査・対策実施フェ
ーズ)」 Cxプロジェクト受託者: 株式会社コミッショニング企画
1) プロジェクトの概要 CMT・ミツイワ 藤原弘史
2) 調査・企画フェーズのCx・CMTの役割 CMT(CA)・Cx企画 松下直幹(CxPE)
3) 対策実施フェーズCx ・施工者の役割 施工者・三機工業 設計部 渡邉亮祐
4) Cxの有効性と本質・今後の展開・施主の役割 発注者・東神開発 岡田洋一郎
・16:10~16:50 質疑応答・ディスカッション コーディネーター:前出 吉田治典
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講演会、シンポジウム開催案内
建築設備コミッショニング協会(BSCA)ではコミッショニング(Cx)の標準化と普及を目的とし、数々の先導的Cx事業に携わってきました。中部では11月の関西のシンポジウムに続き「-2050年カーボンニュートラルの実現に向けた低炭素化社会を目指すにはー」と題し、従来のコミッショニングに加えてカーボンニュートラル実現に向けてのコミッショニングの重要性について考えた上で、中部を中心とした具体的なCx事例を紹介し、今後の建築設備コミッショニングの普及を目指すシンポジウムを行います。
□主 催 特定非営利活動法人 建築設備コミッショニング協会(BSCA)
□協 賛 (公社)空気調和・衛生工学会中部支部 他
□開催日時 2022年1月21日(金) 13:30~17:00
□開催方法 「Zoom meeting」によるオンライン形式
□定 員 90名
□参 加 費 会員5,000 円/人、非会員10,000 円/人、学生1,000円/人
(正会員・賛助会員 無料 ※当日無断欠席の場合、有料となります)
講演内容
司 会 名古屋大学大学院 環境学研究科都市環境学専攻 鵜飼真貴子
13:30~13:40 ご挨拶と趣旨説明 田上賢一(BSCA理事)
13:40~14:10 基調講演1:2050年カーボンニュートラルを見据えたCx適用の重要性
柳原隆司(BSCA副理事長)
14:10~14:40 基調講演2:データ駆動型エネルギーマネジメントと分析評価のリフレーミング
田中英紀(名古屋大学大学院環境学研究科)
14:40~14:50 質疑応答
14:50~15:00 -休 憩-
15:00~15:30 既設建物のCx事例紹介 中部電力熱田のCx と文書ツール活用
山羽 基(中部大学工学部建築学科)
15:30~16:15 新築建物のCx事例紹介 二つの大学建物(理系・中央熱源、文系・個別熱源)の
トータルビルCx 奥宮正哉(名古屋産業科学研究所上席研究員)
16:15~17:00 質疑応答及びパネルディスカッション
司会:山羽 基(前出) パネラー(前出講師)
コミッショニング(以下、Cx)のますますの推進を目指して、BSCAのCxPEが携わったCxプロジェクトのみならず、カーボンニュートラルに向けた取り組みなど、発注者(建物オーナー)、CMT、設計者、運転管理者などから、実践的な実例を発表いただき知見を共有したいと考えています。
□開催日時 2022年2月24日(木) 10:00~16:00
□開催方法 TKP新橋カンファレンスセンター(予定)+Web併用(Zoomウェビナー)
※開催時期のコロナ禍の状況に応じて会場集会の開催は判断致します。
□定 員 会場集会30名 + WEB参加120名
□参 加 費 会員5,000 円/人、非会員10,000 円/人、学生1,000円/人
(正会員・賛助会員 無料 ※当日無断欠席の場合、有料となります)
講演内容
司 会 BSCA理事 上谷勝洋
10:00~10:10 趣旨説明 赤司泰義(BSCA副理事長、東京大学)
10:10~11:10 基調講演:「2050年カーボンニュートラルに向けたグリーンイノベーションの
方向性と実現に向けた検討」 小林延久(早稲田大学)
11:10~11:50 質疑応答
11:50~13:00 休憩
13:00~13:05 開催案内、WEB参加者確認
13:05~13:45 1.大林組技術研究所本館 小関由明様㈱大林組)
13;45~14:25 2.蓄熱による高効率熱源システム構築に関する研究 佐藤文秋(九電工㈱)
14:25~15:05 3.アグリゲーション実証事業 小澤浩(アズビル㈱)
15:05~15:15 質疑応答
15:15~15:25 休憩
15:25~16:00 及びパネルディスカッション コーディネーター:前出 赤司泰義
※講演題目は現時点の仮題とさせていただきます。
活動実績 活動予定 他
◆協会活動実績 (2021/12)
2021年12月15日(水) 第4回 企画・運営委員会(WEB開催)
◆協会活動予定 (2022/1~2022/2)
2022年1月21日(金)、22日(土) 2021年度 CxPE資格研修会
2022年1月21日(金)2021年度BSCAシンポジウムin中部
2022年2月24日(木)2021年度BSCAシンポジウムin東京
◆編集者、編集長より
昨年、10月25日(東京)、11月25日(大阪第1回)、11月30日(大阪第2回)にCxPE座談会を行いました。各座談会とも出席者は10人程度とし、「Cxの普及並びに CxPE の活躍方法」に関する意見交換を行いました。Cxに関して普段から感じていることや、考えていることが意見として出され、活発な議論が行われました。
CxPE座談会の様子はCxレター2月号より複数回にわけてレター掲載を行う予定です。ご期待ください。
◆企画制作
編集者、編集長:大石(建築設備コミッショニング協会 企画運営委員)
WEB版作成:小澤(建築設備コミッショニング協会 事務局)
※本誌に掲載した著作物の著作権は、特定非営利活動法人建築設備コミッショニング協会が所有します。許可無く複写転用することをお断りいたします。
お問合せメール:bsca_mail@bsca.or.jp(@を半角に)