コミッショニングレターvol.18NO.2(2月号)
2021/02/10掲載
新春座談会
座談会出席者
中原信生 建築設備コミッショニング協会 名誉理事長
田上賢一 同上 企画運営委員
三浦克弘 同上 企画運営委員
大石晶彦 同上 コミッショニングレター編集長
司会:
皆様、新年あけましておめでとうございます。本日はコミッショニングレター恒例の新春座談会へご参加下さり、誠にありがとうございます。
昨年は新型コロナウイルス感染拡大により明るい話題が少ない年でした。今年は明るい話題の多い年になって欲しいと切に思います。
司会:
新型コロナウイルス感染拡大も予断を許さない状況で、なかなか先行き予想するのが困難な年のように思いますが、皆様の今年の抱負をお聞かせいただけますでしょうか。
中原
私の公的業務は、学協会の委員会等での後方支援などでしたが、重なる年齢の上にコロナのせいでこの一年間新幹線出張から離れており、ジパング手帳も2枚しか消化できない状態でした。今年も余波が続きますが、BSCAの創始者として何か貢献できることは無いかとCxレターを読みながら夢想しております。抱負と言うよりは、歳を寄るということがどういうことかを日々体験しており、終活とコミッショニングを結び付けた行動ができればよいのですが、なかなか??
大石
今年はBSCAのホームページのリニューアルを行う予定です。会員の皆様により役立つホームページにしたいと考えています。たまた、BSCAの先導的なコミッショニング事例も更新し、最新の情報を読者の皆様にお届けしたいと考えています。懸念点は私が、ホームページ作成、修整ということを経験したことが無いので、どこまでできるか自分でも予測できていないことですね。
田上
SDGsへの取組みに賛同し、各所でいろんな施策や提言が出されています。弊社のHPにも今年は4つの重要課題を特定しました。また、DX(デジタルトランスフォーメーション)に関しても毎日、新聞紙上で目にするようになりました。情報化社会においての情報伝達のスピードは、日々目まぐるしく新化しています。時代に乗り遅れないようアンテナを張り巡らせたいと思います。
最近は建物運用時の業務に関わることが多く、本当はこの様に運用したいけれども、仕様上出来ない事が多いと感じます。コロナウイルスの拡散で、我々の生活と建物の使われ方が変わってしまったので、まずはどの様に変わったのかを把握したいと考えています。運用実態という業務の下流側が明らかになれば、設計、施工の上流側にフィードバックすることが出てきそうですし、コミッショニングプ ロセスの内容充実に貢献できればと目論んでいます。
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司会:
昨年はテレワークやWEB会議などが急速に浸透した年でもあったと思います。BSCAでもZOOMを使用したWEB会議システムを導入し、オンラインで企画運営委員会などの会議を行いました。オンラインで行う会議やシンポジウム、説明会などについて感想をお聞かせください。
大石
昨年4月まではWEB会議システムなどはほとんど利用していませんでしたが、新型コロナウイルスの感染拡大により外出自粛が薦められ、半ば強制的にWEB会議システムを会社としても使用することになりました。WEB会議システムを利用すると、場所を問わずに会議、打合わせができますので移動に時間がとられなくなったことは大きなメリットと感じました。しかし、相手の表情や仕草などが画面では把握できないため、双方向の打合わせに不向きで、講演会やシンポジウム等のある程度一方的な流れの会議等に限定して利用するほうが良いように思いました。
中原
ときどき、HPTCJの委員会WGや、さる会社の技術会議にWEB会議で参加させて頂いており、その範囲では非常に便利と堪能しております。然し若いころの図面照査作業とか、部下の技術指導など、何事も手作業で、デジタル世界は計算と文書作りのみであったころの経験しかない私にとっては、新しい時代の姿がなかなか描けません。黒板やOHP(Overhead Projector)を使っての書きっ放し、話しっ放しの私の授業スタイルなら、大学の授業はWEBでも何とか消化できそうな感じですが・・・Cx作業もWEB、対面を併用した作業プロセスが一般化するでしょうね。
田上
コロナ禍の終息が見えない中、各種会議や委員会、講習会、研修会の大半がWEB会議で行うことになり、仕事の進め方が激変しました。今までは新幹線で移動して会議に参加していたのが、パソコンがあれば、何時でも何処でも参加でき、大いなる時間短縮と業務の効率化を図る事ができるようになりました。今後は、対面会議やWeb会議の双方を上手く併用して進める事により、新たな会議形態の発見に繋がるかもしれません。
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司会:
昨年のコミッショニングレター9月号でUC Davis(カリフォルニア大学デイビス校)の増田弘子さんにUC Davisの新型コロナウイルス対策を報告して頂きました。増田さんは遠隔で空調監視や制御を行っているそうで、エネルギーマネージメント業務も遠隔にて行われているそうです。この点、日本はかなり遅れているように感じるのですが皆様、ご意見をお聞かせください。
大石
設備設計という仕事柄色々な物件をみておりますが、海外の顧客は建物の監視システムを外部ネットワークに接続することを当たり前と考えているように思います。ネットワークセキュリティをある程度信頼していること、また、自ら建物の状況やエネルギー消費量などを確認、チェックしたいと考えているのではないでしょうか。国内顧客の場合、エネルギー消費量計測を細かく行いたいという要望は多いのですが、自ら建物の状況やエネルギー消費量などを確認、チェックしたいというリクエストはあまり聞いたことがありません。
田上
過去に、もの作りをする大規模工場の設計・施工を担当した際に、外部ネットワークはもちろん、工場から外部へデータや情報を持ち出さない原則主義が徹底していました。もう20年前の事ですが、現状はあまり変わっていない気がします。高価なBEMSを入れても使いこなせずに宝の持ち腐れ状態になっている現状を見ると、まだまだCxの役割は無くならないと思います。将来は、Cxという業務が無くなる時代が来るのが望ましいと思いますが。。。
三浦
建物運用時の業務をしていると、建物の性能や運用状態はオーナーにとっても情報として価値があると思うのですが、馴染みのない情報をどの様に活用するのかすぐには見当がつかないのかもしれません。意味や価値の発信するのもBSCAの役割かもしれません。
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司会:
昨年ASHRAEの大会(フロリダ州オーランド)でBSCAが先導的コミッショニングを実施した京都駅ビル熱源改修の発表を行いました。BSCAは一昨年の10月にも米国にコミッショニングの視察団を米国に派遣しております。現地を実際に見て、聞いて米国のコミッショニングと国内のコミッショニングで差異を感じた点がありましたら、ご意見をお聞かせください。
中原
20年前にCx委員会で行った最初の米国コミッショニング状況視察のときの視察内容と思い起こし、比較しつつ興味深く拝見しました。学術的・研究的立場からリードしたNISTウイスコンシン大学、IEA/Annex40の研究チーム、実務的立場から展開したBCAなどによる当時の初期的活動がどのように形を変え、また普及していきつつあるか、日本の現状を踏まえて良い視察布告でした。
大石
私は米国に視察に行った経験が無いので、あくまでも国内物件での話ですが、海外顧客の案件ではCxは必須となっています。ただ、海外顧客の求めるCxは性能というよりもプロセス(手続き)のほうに重点が置かれているように思います。BSCAのように性能検証プロセスを保証するものではなく、いつ、誰が確認し、だれが承認したかのチェックが細かく行われます。空調室内機にチェックシールが張られたら、もう室内機の設定変更することはできなくなります。プロセスも重要なのですが、性能も重要ですのですので、少し違和感を覚えます。
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司会:
米国ではコミッショニングを行うことが一般的と伺っています。国内のコミッショニングの普及状況を見ますと確かに「コミッショニング」という言葉が聞く機会が増えてきていますが、コミッショニングを実施する例は非常に少ない状況であることに異論はないと思います。国内でコミッショニングがなかなか普及しないことについてご意見をお聞かせください。
中原
コミッショニングと言うものの本来の価値を認識しそれを実現する組織体がかなり自由に組織化できる環境にあるかどうかの差であると思います。BSCA関連事業でもそれは皆無とは申しませんが非常に数少ないのが事実と思います。とくにイニシャルコミッショニング(レトロコミッショニングを含む)における査閲と文書化を中心とする性能検証作業、竣工前後に亘る機能性能試験の、通常の非Cx過程における設計・施工・試運転調整作業との切り分けと調和に対する意義と価値に対する統一見解の欠如があると見ます。これは多分米国においても十分に普及していないような気がします。実務を離れているので最近の状況についての認識は甘いですが・・・
三浦
実施内容としてはコミッショニングに近いプロセスが、国内でも増えているのではないでしょうか。少々特殊なプロジェクトでは計画時点に予測をして、建てから性能を検証して、不都合もしくは見逃しがあれば修正していくのは、合意が得やすくなってきました。とはいえ、役割分担が明確で、全体を独立プロセスとして遂行できているかというと、そこはまだまだというのが実感です。
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司会:
昨年「パリ協定」が実施されましたが、新型コロナウイルスのせいか大きな話題にならなかったように思います。今年は米国がパリ協定に再加盟する話もあり、地球環境問題に対する世間の関心は高まると思います。日本は京都議定書(COP3)のころに比べて、地球環境問題に後れをとりつつあるように思うのですが、皆様ご意見をお聞かせください。
田上
米国では大統領の交替で、パリ協定に再加入を宣言した事は、世界中から大歓迎されたと思います。
エネルギー大国の米国が、いつまでも石油産業や石炭産業に依存すべきではなく「地球を守る」上でもクリーンエネルギーへの転換は避けて通る事はできません。日本国内では、省エネを積極的に進めた産業界に反し、住宅分野にZEHを導入するなど、国民自らの意識を持って臨む事ができれば、かなりの成果が得られると考えます。しかしながら、何かしらのインセンティブを与えないと難しいでしょうね。
中原
COP3の頃は純粋に技術的合理的な範囲での省エネルギー活動と両立していたので、純粋評価できていた、それが世界をリードできた主要因であったと、年寄りは思います。それがゼロエネルギーの標語につじつま合わせしようとする行政的・技術的動向が優先するようになって、逆に地球環境問題に後れを取るようになった要因と思います。低炭酸ガスでなく「低炭素」が目標であるかのような標語の使い方にも問題が有るかと。コロナ問題でにわかにクローズアップされた換気問題も、換気の原理(温度差換気、風力換気、24時間強制換気)から説明する雰囲気の無いのは残念です。何れにしてもコロナ問題は空気調和換気技術とコミッショニングの大海に大きな一石が投じられたように思えます。
大石
ある物件で海外製(ヨーロッパメーカ)の空調機や冷凍機、UPSを導入することがあったのですが、製品の良し悪しは別にして、省エネ性能に関する仕様は日本の製品を上回っている点がありました。省エネ性能は国内メーカーがNo1だと思っていましたのでショックを受けました。国内メーカーは質実剛健な製品を目指しすぎているように思います。
司会:
皆様、その他のテーマでご意見はございませんでしょうか。自由に発言をお願いします。
三浦
建設業界ではBIMに代表されるデジタル情報が質と量の両面で使いやすくなってきました。コンピューテーショナルデザインがキーワードになっている様です。最新の技術を従来からの目標である省エネルギー、というよりエネルギーの使用の合理化に活用する方法を意識しています。業務の効率化がメインになるのかもしれませんが、目標に近づけていくという観点で何か出来ないかと考えています。
大石
BIMはCFDや熱負荷計算などのシミュレーションツールとの連携も可能ですし、BIMモデル自体が情報の塊です。設備機器の仕様も全てBIMデータの中に入っていますので、Cxとの連携もたやすくできるように思います。BIMを本格的に利用するには設計方法の見直しや施工サイドへの情報伝達など課題もあり、国内では普及しているとは言い難い状況ですが、これから徐々に普及するのは間違いないと思いますので、何年後かには2Dの図面は消えてしまうと思います。三浦さんの言われるコンピューテーショナルデザインが進み、いままでなんとなく設計していたものが、シミュレーションで明確に良し悪しがわかる時代がすぐにくると思います。
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司会:
皆様、本日はありがとうございました。まだまだ言い足りないところがあるかも知れませんが、時間の都合上これにて終了させていただきます。今年一年が皆様にとって、またBSCA会員の皆様にとっても良い年になることをご祈念申し上げます。
空気調和・衛生工学会主催シンポジウムのご案内
空気調和・衛生工学会主催の建物エネルギーシミュレーション評価法に関するシンポジウム(WEB開催)が下記の通り開催されます。
当協会の吉田理事長、赤司副理事長もご講演されます。奮ってお申込みください。
名称 「建物エネルギーシミュレーション評価法の開発-その役割・ニーズ・課題・展望」
主 催 空気調和・衛生工学会 特別委員会 省エネシミュレーション評価法作成委員会
開催日 令和3年3月9日(火) 13:30~16:30 (受付13:00~)
開催方法 ZOOMを利用したオンライン講演(予定)
定 員 80名
参加費 無料
申し込み方法下記URLからお申し込みください。
活動実績 活動予定 他
◆協会活動実績 (2021/1)
2020年度 CxTE講習会 1月29日(金)オンライン開催
2020年度 第4回 企画・運営委員会 1月21日(木)オンライン開催
◆協会活動予定 (2021/2~2021/3)
2020年度 第5回 企画・運営委員会 3月11日(木)オンライン開催
◆編集者より
Cxをお客様に広めることができないかと、今年度よりお客様建物に対する有償のCxサービスを実施しています。主に既存Cxになるのですが、複数の建物でウォークスルーさせていただき、管理状況などを確認すると「情報の伝達不足」を実感します。Cxマニュアルでいう「不精者」が多いようですので、オーナーにCxの有用性を理解いただき、このような状況が少しでも良くなるよう今後も活動を行っていきたいと思います。
◆編集長より
今年も恒例の「Cxレター新春座談会」を開催しました。例年に比べ参加者が少なく、少し寂しい座談会となりましたが、恒例の行事を終えられてほっとしています。来年はZOOMを使ったオンライン新春座談会を企画してみようかなと考えています。エンドレスになりそうで少々不安ですが、ご期待ください。
◆企画制作
編集長:大石(BSCA企画運営委員)
編 集:天野(BSCA企画運営委員)
WEB版作成:小澤(BSCA事務局)
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