コミッショニングレターVol.18 No.1(1月号)
2021/01/08掲載
年頭のごあいさつ
2021年 新年を迎えて
BSCA理事長 吉田治典
新年おめでとうございます。昨年はコロナ禍に終始し、先の見えない1年間でした。本年こそはこの災難から脱却し、皆様方にとって幸多き年になるよう祈念いたします。
昨秋、長期に亘った政権にも終止符が打たれ新政権が誕生しました。しかし、当初期待感の強かった新政権も、コロナ禍のなか後手に回った対応やGoToトラベルのかたくなな推進などで民意を読み損ね、さらに学術会議委員の任命問題でも明解な説明がないままに学会と泥沼状態の関係となるなど、支持率は急落、難しい門出となっています。そんな中、2050年までにカーボンニュートラルを目指すという宣言と、世界に遅れをとっているデジタル化への邁進という政策には、コミッショニングの必要性を謳う当協会にとっても大きく関連するテーマであり期待するところです。近未来の日本にとってとても重要なこれらのテーマでは、「歩むべき方向を読み違えている。失望した!」、とならないようにお願いしたいものです。
カーボンニュートラルは1997年に締結された2020京都議定書(COP3)に原点があり、それを引き継ぐ2015年のパリ協定(COP21)でようやく具体的な目標設定がなされ対応が始まっています。しかし、残念ながら前政権はこの協定をほぼ無視したのではないかと私は感じています。それは、京都議定書では開催国の体面を保つために過剰な削減率を約束してしまった、そうなったのは欧米の陰謀ではないのか、という反動から生じたのかもしれません。しかし、私には、再生可能エネルギーを過少評価しかつ電力グリッドを不安定化させる邪魔者として扱ったこと、さらに追い打ちをかけるように起きた2011年の原発事故でエネルギー政策が瓦解したにも拘わらず、対策をとらなかった(目をそむけてきた?)日本政府の姿勢によるものだと思えます。そして、2011年以降は道筋が見えないまま、再生可能エネルギーの導入にも省エネにもさほど意欲を示さず、石炭火力の正当性やCO2の地中貯留などという、持続的とはいいがたい技術を持ち出して世界の潮流から外れ、失笑までかう羽目になってしまいました。
この間に、世界では再生可能エネルギーを安く大量に手に入れる技術と仕組みの開発が大きく進展しています。遅きに失したとはいえ今から急いでキャッチアップするほか道はないのでしょうが、そこで、今までと同じくモノを買うための補助金行政だけが続くようでは明るい未来はないと思います。コミッショニングを導入し、「良いモノ」に「省エネの企画・設計とその検証」をバインドする「仕組み」なしにはカーボンニュートラルは達成できません。本年は、会員の皆さんと共に、この方向転換をどうすれば造り上げられるかを考え実行してゆきたいと思います。
最近、SDGsやESGが流行り、ESG投資による選別が今後の企業の命運を分けると云われています。私事で恐縮ですが、振り返えると、1991年に建築学科から、工学系では日本で初めて「地球環境」を掲げた地球環境工学専攻という大学院大学へ移籍したとき、理学としての地球(物理)ではなく、工学としての地球(環境)を研究するには何が学問のベースになるのかを自問し、様々な文献を読みあさったことがあります。そして、1960年代の公害問題は法律で解決し、1970年代のエネルギー危機(オイルショック)は経済で解決した、1990年代のいま、課題となっている地球環境問題は倫理で解決するしかなさそうだということを知り、学生にも授業でそう教えてきました。しかし内心、社会が本当に倫理で動くのだろうかと心配でもありました。ところが、今、それが現実に動きだし、企業は、ROEに代表される資金運用の効率性だけではなく、環境、人権、ダイバシティー、地域貢献など持続性の度合いで判定され始めるようになりました。企業が持続することで企業価値=株価が上がるという意味では経済ともいえますが、その根底には倫理にもとづく価値判断があります。これで世界は、トランプや習近平がもたらすような、金と法によるギスギスした社会から脱却できるのではないかと期待しています。30年ほど前に予測された未来のあり方が今SDGsやESGとして動きだそうとしています。両者は、環境保全だけではなく、ガバナンスの重要さにおいてもコミッショニングと通底しています。今後も皆様と共にどのようにSDGsやESGとコミッショニングをドッキングさせればいいか考え実行してゆきたいと思います。
デジタル化の遅れをいかに取り戻すかも重要です。しかし、デジタルトランスフォーメーション(DX)という流行言葉に溺れ、単に省庁間のデータ統合のような、して当たり前の改革(改善)や、マイナンバーで税金を一元管理して一方的に統制管理しようという浅はかな改革(改善)ではなく、データのオープン化と新たな活用方法をプロモートすることを視野にした根本的な改革を推進して欲しいものです。
DXはBEMSなどのビッグデータの活用という面でコミッショニングと大きく関係します。昨年、コロナ禍が始まる寸前にASHRAEの大会に参加し、帰りに米国でキャンパス省エネの先陣を切っているカリフォルニア大学デービス校(UC Davis)と、コミッショニングも含め、綿々と建築に関する省エネの先導的な研究をしているローレンスバークレー国立研究所(LBNL)を訪ねました。
ASHRAEの企業展示会EXPOでは、ダイキンや安川電機などの活躍に日本の力を見ることができましたが、SCADAなど、データハンドリングのコーナーには日本企業は影も形もありませんでした。帰りに訪ねた大学も研究所もオープン化したシステムでデータを大量にかつ簡単に取得するシステムのソフト開発を自ら行い、使いやすい環境を構築していました。米国では、最近10年ほどの間にオープン化システムのハードとソフトが飛躍的に向上したそうです。そのおかげで、ほとんど苦労することなく大量データの収集・処理・分析のためのシステムが構築できるようになったそうです。実際、データを可視化し分析するビジュアルなツールも簡単に造れるということで、沢山の分析画面サンプルを見せて頂きました。このようにDXが遅れているのは行政だけではなく建築設備分野でも明かです。我々コミッショニングに関わる者も、心してDXに取り組む必要があると感じていますが、そのためにはコミッショニングを発注するオーナーやDXを推進する行政の理解も必要です。会員の皆様と共にこれにどう取り組むか考え実行したいと思います。
UC DavisやLBNLを訪問した際、会員の増田さんにお世話になりました。増田さんはテキサスA&M大学でPh.Dを取得され、現在、UC Davisの省エネ担当職員として勤務し、米国籍のご主人と2人の娘さんと幸せな生活を送っておられます。今回の取材の一端を下記に紹介して、本年の年頭の挨拶を締めくくります。
本年もBSCAの活動に協働して頂くようよろしくお願いします。
Cxの推進を目指して―BSCAシンポジウムin関西(報告)
株式会社コミッショニング企画
BSCA・理事 松下直幹
2020年12月3日に、大阪大学中之島センター・佐治敬三メモリアルホール(大阪市北区中之島)において、「コミッショニングの推進を目指して」と題しまして、コミッショニング事例を紹介するシンポジウムを開催いたしました。コロナ禍のさなか、感染対策に十分配慮したうえでの開催でしたが、制限した参加者定員いっぱいの66名の方々にご参加いただきました。
シンポジウムでは、まず当協会理事長より、シンポジウムの主旨説明と建築業界の現状を踏まえたコミッショニング(以下、Cx)がなぜ必要なのかについてお話しされた後、広島大学の金田一清香先生、京都駅ビル開発の高浦敬之様による基調講演が行われました。金田一先生は、「地方から考えるこれからの建築の環境づくり~子どもたちに残したいこと~」と題しまして、地方都市のインフラ事情、金田一先生のご出身の寒冷地北海道と現在、お住いの温暖地広島との暖房習慣の違いなどについて大変興味深いご講演をいただきました。Cxに関しては、コロナ禍を契機に良質な空気環境に対するニーズの高まりにより、省エネだけでなく、同時に健康・快適を実現する建築を増やしていくにはCxが重要な鍵になると述べられました。二つめの高浦様のご講演は、「コミッショニングの主流化に向けて」と題して、省エネ大賞はじめ多くの賞を受賞した京都駅ビル熱源・空調改修工事のCxプロジェクトにおける発注者としての経験を通じて、Cxがなぜ必要で、今後Cxが主流化するためには何が必要かについて話されました。
二つの基調講演の後は、当協会の受託プロジェクトである「東急電鉄地下駅空調設備改修工事Cxプロジェクト」及び、株式会社コミッショニング企画が受託している「立命館慶祥中学校・高等学校熱源空調改修工事Cxプロジェクト」と「二子玉川高島屋既存Cxプロジェクト」の2件、合わせて3件のプロジェクト事例の発表が行われました。それぞれ最初に、プロジェクトを推進するCx管理チーム(CMT)の代表者がプロジェクトの概要を説明し、その後、発注者(建物オーナー)をはじめ、設計者、施工者、ビル管理者らがそれぞれの立場からプロジェクトを通じて感じられたCxの効用や期待感などが語られました。
最後に、各プロジェクトの発注者をパネリストとして登壇していただき、吉田理事長がコーディネートで質疑応答、パネルディスカッションが行われました。
このシンポジウムの各発表とその後のディスカッションの様子は、今後、当協会のビデオコンテンツとして配信する予定です。詳細は、これをご覧いただければと思います。
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【プログラム】(司会:コミッショニング企画、BSCA理事 松下直幹)
・主旨説明 建築設備コミッショニング協会理事長、京都大学名誉教授・吉田治典 (10分)
・基調講演1 地方から考えるこれからの建築の環境づくり~子どもたちに残したいこと~
広島大学准教授・金田一清香 (30分)
・基調講演2 コミッショニングの主流化に向けて 京都駅ビル開発・髙浦敬之 (25分)
・Cxプロジェクト事例紹介
Ø 事例1:東急電鉄地下駅空調設備改修工事Cxプロジェクト(基本・実施設計フェーズ)(40分)
【Cxプロジェクト受託者:建築設備コミッショニング協会】
1) 空調・換気設備改修プロジェクト概要 前出・吉田治典(CxPE)(10分)
2) 全駅空調統括管理システム企画設計プロジェクト概要 前出・松下直幹(CxPE)(10分)
3) 全駅空調統括管理システム概念設計 高砂熱学工業・山口淳志(CxPE)(13分)
4) 発注者・東急電鉄におけるCxの効果 東急電鉄・山田信太朗(17分)
Ø 事例2: 立命館慶祥中学校・高等学校熱源空調改修工事Cxプロジェクト(調査/企画フェーズ・
設計フェーズ) 【Cxプロジェクト受託者:コミッショニング企画】
1) Cxプロジェクトの概要 Cx企画/技術士事務所流玄舎・岡 敦郎(CxPE)(12分)
2) 設計者からみたCxの有用性 安井建築設計事務所・小林陽一(CxPE)(12分)
3) 立命館(発注者) におけるCxの効果・学校法人立命館・永田耕一(11分)
Ø 事例3:二子玉川高島屋 既存Cxプロジェクト
【Cxプロジェクト受託者:コミッショニング企画・ミツイワ】
1) Cxプロジェクトの概要 前出・松下直幹(CxPE)(10分)
2) ビル運転管理者からみたCxの有用性とCxにおけるビル管理者の役割
大星ビル管理・齋藤 良(10分)
3) ビルオーナーからみたCxの有用性と期待 東神開発・千石谷克敏(15分)
・質疑応答・パネルディスカッション(40分)
コーディネーター:前出 吉田治典
パネラリスト:髙浦敬之、山田信太朗、永田耕一、齋藤良、千石谷克敏(発表順)
第11回 CxPE(性能検証技術者)資格研修会(報告)
CxPE資格研修小委員会 幹事
関西電力株式会社 辻裕伸(CxPE)
当協会では、コミッショニングの社会的普及を目的とした活動の一環として、CxPE(性能検証技術者)の資格登録を行ってきています。現在までに、10回の研修会を実施し95名の方が資格登録者となられています。
第11回CxPE資格研修会は12月18・19日の2日間で大阪市福島区の堂島リバーフォーラムにて開催されました。一年ぶりの開催として計画している中、新型コロナウィルス蔓延により開催が危惧されましたが、感染症対策を十分にとることで開催することとし、7名の受講者に参加いただくことができ、無事開催することができました。
研修内容は、1日目にコミッショニングマニュアルに沿った「講義」を吉田理事長、西山氏(日建設計コンストラクションマネジメント)、小林氏(安井建築設計事務所)、天野氏(四国電力)、山口氏(関西電力)、松下氏(コミッショニング企画)の各講師から、2日目に「修了試験」と受講者による「プレゼンテーション&ディスカッション」を行いました。1日目は朝から夕方まで机上での講義が続く非常に密度の濃い研修会でしたが受講者に皆さんは熱心に聴講されていました。また、2日目の「プレゼンテーション&ディスカッション」では、受講者の皆さんからのレベルの高いプレゼンテーションとそれに対する活発なディスカッションがあり、コミッショニングに関する関心や理解が深まったものと感じました。
2020年度 CxTE講習会開催案内(会告)
当協会は機能性能試験や運転の最適化などの検証業務を、CxPE(コミッショニング専門技術者)と協力して円滑に実施するCxTE (Commissioning Technical Engineer性能検証専門技術者)の育成を進めています。
CxTEに求められるのは次のような資質と技能です。
1) 性能検証チームの一員としてCA 並びに(CxPE)の指示に従い、コミッショニング業務を遂行できる技術を有する。
2) 計測技術と分析能力に優れ、試運転調整や自動制御の専門的知識を持ち、現場における検証業務を的確に実行できる。
3) データ処理ツールやシミュレーションの活用に優れ、故障検知・診断の専門的知見を持ち、システムの最適化および最適チューニングが実施できる。
4) データ分析の技術と設備システムの知識を幅広く有する。
2012年から開催している講習会を本年度はコロナ禍の状況を考慮し「Zoom」にとるオンライン開催とします。
講義内容のご確認、並びにお申し込みは下記の協会ホームページよりお願いいたします。
講習日時:2021年1月29日(金)9:00~16:30「Zoom」を利用したオンライン講習会
参加定員:60名
参 加 費:
1.個人正会員の方:A・B両方受講の場合 10,000円,AのみBのみ片方受講の場合5,000円
※賛助会員企業からは2名まで受講費を無料、3名目から上記の受講料となります。
2.参加費(一般):A・B両方受講の場合 20,000円,AのみBのみ片方受講の場合15,000円
※学生の方 5,000円(A・B両方でも片方でも同額です)
講習は主として2)の資質に長けたCxTE -Aと、3)の資質に長けたCxTE-Bの2つに分かれており、両方もしくは片方のいずれでも受講可能です。
なお、受講修了された方々は、協会に登録して頂くことができ、登録者数は2020年4月時点で61名です。(ただし、登録にはBSCAの会員になって頂く必要があります)
登録内容は当協会のホームページ(http://www.bsca.or.jp/cxte/)に掲載しており、Cxの業務実施に必要となる人的リソース情報として広く社会に公開しています。
◆協会活動実績 (2020/12)
コミッショニングの推進を目指して BSCAシンポジウムin関西 12月3日(木)(於:大阪)
第6回理事会 12月9日(水)(web開催)
第11回(2020年)CxPE(性能検証技術者)資格研修会 12月18日(金)、19日(土)(於:大阪)
◆協会活動予定 (2021/1~2021/2)
2020年度 CxTE講習会 1月29日(金)オンライン開催
◆編集者より
思えばちょうど1年前の12月下旬に中国の武漢で新型のコロナウイルスが確認されたというニュースが飛び込んできました。遠い国での新たな感染拡大程度の思いでしたが、現実は、世界中の感染拡大となり、最近では変異種の新化したウイルスまで出て来ました。ワクチンが完成したそうですが終息までの先が全く見えません。早く普通の生活に戻り、平和な世界となるよう祈るばかりですが。。。。
◆編集長より
年末年始は故郷への帰省もとりやめ、自宅にこもっていました。正月には多数の参拝客が訪れる自宅近くの天満宮も人出は少ないようでした。例年とは異なる正月風景に違和感を感じると共に、こんなお正月は今年で終わりになってほしいと痛切に感じました。
新型コロナウイルスが終息し、マスクのいらない日常が戻ってきて欲しいと切に願います。
◆企画制作
編集長:大石(BSCA企画運営委員)
編 集:田上(BSCA企画運営委員)
WEB版作成:小澤(BSCA事務局)
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