コミッショニングレターVol.17 No.1(1月号)
2020/01/06掲載
年頭のごあいさつ
2020年 新年を迎えて
BSCA理事長 吉田治典
新年おめでとうございます。本年が皆様方にとって幸多き年になるよう祈念いたします。
今年、関西は天気が良く温和で平和な正月三が日の訪れとなりました。ただ、世間では、ゴーン氏の国外逃亡、日本の政治家に中国人が絡んだIRワイロ事件、さらには以前から続く北朝鮮、韓国、中国との様々なフリクションなど、我が国が国際社会に巻き巻き込まれる動揺が続いています。こうしたなか、日本への観光ブームやラグビーワールドカップの開催で国外からの観光客が増え、本年は東京オリンピックもあって、ますます我が国と国際社会の友好距離は縮まるという歓迎すべき動きがあることは光明です。
揺れ動く世界の流れの中で我が国の対応は大丈夫なのかと問えば、残念ながら、IT時代への変革スピードの遅さ、それが起因してなかなか進まないキャッシュレス化や5G対応など、心もとない現実が浮かび上がってきます。特に我々BSCA会員に深く関わる地球環境問題への取り組みでは、かつて京都プロトコルを旗印に環境先進国と注目された国から、時代錯誤だとされる石炭火力発電の継続や推進、再生可能エネルギー導入スピードの遅さなどによって糾弾される国になってしまいました。更にいえば、児童や学生の学力・体力の低下、少子高齢化による国力の低下、なかなか向上しない英語力など、不安材料は枚挙にいとまがありません。そこで、新年にあたり、日本のそしてBSCAの将来ために何をすべきなのか私なりに考えてみました。
その1: 将来、ピラミッド型の組織は減少し就労者の1/2は組織に属さないで働くようになるという予想があります。誰でもできる労働はAIやロボットに任せ、知的生産に関わる個人ベースの労働が増えるといわれています。ところでコミッショニングは、何を目指すのかを発注者と議論してOPRを創り上げる作業、データを分析し不具合を見いだす作業、システムの性能を検証する作業など、多岐に亘る総合業務のためAI化できない部分が多くあると思います。一品生産品である設備システムのコミッショニングを統括する業務には、人との関わりを保ちながら臨機応変に対応する能力が必要で、AIで自動化されるというよりもAIを最大限に活用して創造する知的生産活動になるのだと思われます。この労働を担うには、最新のIT技術を継続的にマスターしながら、一方では多くの経験を重ねることが重要となります。豊富な経験が必要という点で、IT技術を吸収する努力をしていれば高齢者のほうが価値の高いコミッショニング技術者になれる可能性も高いと思います。今から始まる働き方改革や年金の給付年齢の引き上げなどとも関係し、次世代を担う個人ベースの労働として有望な展開が期待できるのではないでしょうか。
その2: 我が国から海外へ留学する学生数が減りこれでは将来が危うい、これも言われ始めてから久しい課題です。一方、大学のランキングを上げるためには外国から日本への留学生数を増やすことが重要とされ、文部科学省が懸命に大学にプレッシャーをかけたためにこれはかなり増えたようです。しかし、海外からの留学生が増え国際交流が盛んになることは歓迎ですが、日本からの海外留学生が減り若者の視野が狭くなる状況が続いていい訳はありません。我が国の国費留学生とは、出身国の政府が資金援助する留学生のことではなく日本政府が資金援助する学生のことをいうのですが、先日ある懇談の場でこれを知らなかったという話題がでました。日本政府が税金で援助するのは海外からの留学生であり、日本から海外へゆく留学生にはほとんど援助をしていません。また、欧米の博士課程の学生は給与に相当するほどの資金援助を受け、日本のように親が学費を払うことは皆無です。こうして日本の博士課程の学生数が増えるのは留学生ばかりで、結果、大学の教員採用でも外国人がどんどん席巻しています。外国人の教員が増えることはいいことですが、その背景にある状況は健全ではありません。
こんな状況に対し、コミッショニングに関する基礎研究を含めたプロジェクトをBSCAが獲得して学生への経済的支援ができるようにする。こんな草の根の活動でもいいからやらないと日本の現状は打破できないのではないかと危惧します。これで現実に即した研究をすることによって社会に役立つ博士課程の学生が育ち、企業が博士課程に求める人材のミスマッチも減ると思います。これもNPOであるBSCAの活動の一つだと思います。こういう思いを持つに至ったのは、かつてIEA関連の国際共同研究に携わった経験からです。その場には各国からコミッショニングを研究テーマにする博士課程の学生が関与し、そこから多くの研究者や技術者が育ってゆきました。日本の企業が海外の大学へ研究委託をする場合、日本の大学へ委託する10倍程度の費用を払っています。問題は資金の制約ではなく費用対効果のミスマッチです。最近の文部科学省はあまり頼りにならないので、企業と大学とで真剣に考えて日本から優秀な人材が輩出できるような改革を少しずつでもいいから実行することが日本のために必要ではないでしょか。
その3: 近年、個人情報の保護がゆき過ぎていると思います。本来守られる必要のない人までもがそのルールで保護されていないでしょうか。例えば、Sの会の名簿を個人情報だからとルールに沿って即時廃棄していいのでしょうか。個人情報保護もISOも西欧社会のスタンダードをそれ以外の文化圏に当てはめて世界標準を作ることを目指しているのだと思いますが、それを遵守させたいターゲット対象国は日本ではないはずです。私的な意見ですが、我が国には規制が目的化してしまい、何のための規制なのかという原点を深く考えないという欠陥があると思います。ISO9000や14000が行き詰まっているのもそれが一因だと言われています。情報保護法もおなじ運命を辿っては困ります。
それよりも、日本の未来のために必要なのは、役立つ情報を積極的に開示して社会を活性化することだと思います。ビッグデータ情報の開示も同様の課題をはらんでいます。情報保護ルールを破る「かもしれない」という予見をもとに、内的に執拗に咎める風潮は魔女狩り的であり我が国の健康を害していると思います。健全な情報公開という逆のベクトルにもっと注力しないと社会が閉塞します。法をよく知り、どうすれば情報を活用できるかを考える姿勢と実践する勇気が今の我々に必要なことです。規制を受け入れることは何もしないことにほぼ等しいので楽ですが、それで未来が疲弊するようでは困ります。
本年は、変革しなければならない我が国を憂い、年頭の挨拶で自己主張をしてしまいました。最後になりましたが、会員の皆様には、本年も当協会の活動にご協力いただき共に未来に向けて歩むことを願ってやみません。
2019年度 CxTE講習会案内
当協会は機能性能試験や運転の最適化などの検証業務を、CxPE(コミッショニング専門技術者)と協力して円滑に実施するCxTE (Commissioning Technical Engineer性能検証専門技術者)の育成を進めています。
CxTEに求められるのは次のような資質と技能です。
1) 性能検証チームの一員としてCA 並びに(CxPE)の指示に従い、コミッショニング業務を遂行できる技術を有する。
2) 計測技術と分析能力に優れ、試運転調整や自動制御の専門的知識を持ち、現場における検証業務を的確に実行できる。
3) データ処理ツールやシミュレーションの活用に優れ、故障検知・診断の専門的知見を持ち、システムの最適化および最適チューニングが実施できる。
4) データ分析の技術と設備システムの知識を幅広く有する。
2012年から開催している講習会を本年度は仙台、名古屋、岡山で開催します。(仙台会場及び名古屋会場の講習会は開催済みです。)
講義内容のご確認、並びにお申し込みは下記の協会ホームページよりお願いいたします。
岡山 講習会
日 付:2020年1月22日(水)
場 所:NPD貸会議室 岡山駅前 地下1階フロアA(岡山市北区下石井1丁目1-3)
講習は主として2)の資質に長けたCxTE -Aと、3)の資質に長けたCxTE-Bの2つに分かれており、両方もしくは片方のいずれでも受講可能です。
なお、受講修了された方々は、協会に登録して頂くことができ、登録者数は2019年4月時点で61名です。(ただし、登録にはBSCAの会員になって頂く必要があります)
登録内容は当協会のホームページ(http://www.bsca.or.jp/cxte/)に掲載しており、Cxの業務実施に必要となる人的リソース情報として広く社会に公開しています。
2019年度 CxTE講習会(名古屋)開催報告
新菱冷熱工業株式会社 田上賢一(CxPE)
CxTE名古屋講習会は12月6日に中部大学名古屋キャンパスにて行われ、厳しい冷え込みの中、16名の受講生に欠席者も無く、熱心に講習を受講されました。
今年度の講習会も昨年度までと同様に、CxTEの持つべき資質と技能についての講義と必要な技術に関する演習を実施しました。
プログラムとしては午前中にCxTE-A講習を上谷氏(東洋熱工業)、田上、三浦氏(鹿島建設)が行いました。その後、昼休みを挟んで午後の最初にCxTE-AおよびBに共通する全体講習を山羽先生(中部大学)、CxTE-B講習を田上、山田氏(日建設計総合研究所)が行いました。
受講者数はCxTE-AとBの受講者が13名、CxTE-Bのみの受講者が3名、合計16名が受講されました。受講者には、修了証書が後日に発送される予定です。当協会ではCxTEが世の中に広く認知され、その需要が高まることを目指して、CxTEの経歴を公開する登録制度を運用しています。
昨年度までに61名の方が登録されています。登録内容はCx業務に必要となる人的リソース情報として公開しております。
CxTE登録申請並びに登録者リストに関しては下記の協会ホームページを参照ください。
http://www.bsca.or.jp/qualification/cxte.html
今回の講習会を通じて、自らの技術がCxTE に要求される資質と技能のレベルを備えていると判断された受講修了者の皆様には、主旨を理解いただきBSCAに登録していただきたいと考えております。登録時にはBSCA への入会もご検討頂けると幸いです。(右上写真は講習会当日の様子)
シンポジウム、見学会のご案内
◆一般社団法人 日本建築設備診断機構(JAFIA) 第11回シンポジウムのご案内
一般社団法人日本建築設備診断機構(JAFIA)では、広報活動の一環として毎年公開シンポジウムを行っており、今回で通算33回、一般社団法人としては第11回目の開催となります。
今回は「建築設備のコミッショニング、IoT・ICT・AIの活用」をメインテーマとして、建築設備のリニューアル、施設運用に関する事例および最新の技術を活用する事例をご紹介し、皆様に有益な情報をご提供することを目的として企画しております。BSCAの吉田理事長の「京都駅ビル熱源・空調設備省エネ改修-」に関する発表も行われます。お申し込みは下記のホームページよりお願いします。
テーマ:「建築設備のコミッショニング、IoT・ICT・AIの活用」
日 時:令和2年2月26日(水)13時15分~17時(12時30分受付開始)
場 所:東京ガス 本社2階大会議室(東京都港区海岸1-5-20)
参加費:JAFIA会員・協賛団体会員1名様5,000円(税込)
一般参加者 1名様8,000円 (税込)
主 催:一般社団法人 日本建築設備診断機構(JAFIA)
◇プログラム
13:15-13:20( 5分)
会場案内等
13:20-13:30(10分)
主催者挨拶 JAFIA会長 石塚 義髙
13:30-14:00(30分)
①「官庁施設の建築保全行政の動向」
国土交通省 大臣官房官庁営繕部計画課 保全指導室 室長 伊藤 誠恭 講師
14:00-14:55(55分)
②「コミッショニングで100年建築を目指す-京都駅ビル熱源・空調設備省エネ改修-」
NPO法人建築設備コミッショニング協会理事長 京都大学名誉教授 吉田 治典 講師
(休憩15分)
15:10-16:05(55分)
③「ビル・施設分野におけるIoT/ICTの活用」
ダイダン㈱ イノベーション本部 技術研究所 IoT推進課 主管研究員 前園 武 講師
16:05-17:00(55分)
④「住宅・建築物におけるIoT、ICT、AI技術の防災・減災への展開」
国土交通省 国土技術政策総合研究所 住宅研究部長 山海 敏弘 講師
17:00 シンポジウム終了
◆一般社団法人関西ESCO協会主催 中之島フィステバルタワー見学会のご案内
一般社団法人関西ESCO協会主催で「中之島フィステバルタワーの学会」を2019年2月19日(木)に開催します。BSCAではこの見学会を後援いたします。皆様、奮ってご参加ください。
お申し込みは下記のホームページよりお願いします。
テーマ:「中之島フェスティバルタワー」見学会
日 時:2020年2月19日(水)14:00-16:30(予定)(受付13:40~13:50)
場 所:中之島フェスティバルタワー(〒530-0005 大阪市北区中之島2-3-18)
参加費:正会員・特別会員:一人目無料、二人目以降1,000円/人
賛助会員:1,000円/人一般:2,000円/人
(*後援団体会員は賛助会員価格と同じとして、1,000円/人)
主 催:一般社団法人関西ESCO協会
後 援:特定非営利活動法人建築設備コミッショニング協会
◇中之島フェスティバルタワー概要
建築主:㈱朝日新聞社
設計・監理:㈱日建設計
施工:㈱竹中工務店
工期: 2010/1~2012/10(34カ月)
建設規模:地下3階、地上39階
延べ床面積:146,212m2
最高高さ:199.89m
その他:CASBEE Sランク
耐震:免震ゴム、オイルダンパーにより耐震Sグレード実現
省エネ技術:河川水利用空調システムでCO2排出量を約40%削減、全館LED照明の採用等
活動実績 活動予定 他
◆協会活動実績 (2019/12)
2019年度 CxTE名古屋講習会 12月6日(金)
2019年度 第4回 企画・運営委員会 12月13日(金)
◆協会活動予定 (2020/01~2020/02)
2019年度 CxTE岡山講習会 1月22日(水)
2019年度 第5回 企画・運営委員会 2月27日(木)
◆編集長より
毎年1月号に「新春座談会」を掲載しておりましたが、今年より諸般の事情により、2月に掲載させていただくことといたしました。「新春座談会」記事を楽しみにしておられた方も多くいらっしゃると思いますが、
一月の間、お待ちいただきますようお願いします。
閑話休題、コミッショニングレターをWEB版に移行し3か月経ちました。コミッショニングレターWEB版はスマホからでも閲覧可能ですので、通期途中や少し時間が空いたときに気軽にお読みいただけます。
御愛読のほどよろしくお願い申し上げます。
◆企画制作
編集長:大石(BSCA企画運営委員)
WEB版作成:小澤(BSCA事務局)
※本誌に掲載した著作物の著作権は、特定非営利活動法人建築設備コミッショニング協会が所有します。許可無く複写転用することをお断りいたします。
お問合せメール:bsca_mail@bsca.or.jp(アットマークは半角に)